日本人の平均寿命は年々延長し2001年には、男性が78.07歳、 女性が84.93歳となりました。しかし実際には、平均寿命の最後の 2年間はベットで寝たきりの状態なのです。この寝たきりの原因の多く は、脳卒中なのです。そこで、脳卒中について説明したいと思います。

1脳卒中とは、
脳の血液の流れの障害によって生じる脳の障害の総称が脳卒中です。代 表的な病気は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血で、この三つの病気で全 体の95%を占めます。

2脳卒中の頻度は、
1997年の統計では、脳卒中による年間死亡者数は13万8697人で、 その内、8万6986人が脳梗塞、3万1786人が脳出血、1万43 84人がくも膜下出血で死亡しています。 1996年の患者調査では、脳卒中の患者総数は173万人です。この 内、毎年13万人が死亡し、残りの160万人が何らかの障害を抱えて 生活している計算になります(内21万6000が入院中でほぼ寝たき り状態です)。この様に脳卒中は、寝たきりの原因の大きな割合を占め ています。

3三疾患の特徴
1)脳梗塞 脳梗塞は、脳の血管がつまったり、狭くなって、脳への血の流れが障害 され、脳細胞が死んでしまう病気です。日本人の脳卒中の7割近くがこ の脳梗塞です。 脳梗塞は、血管のつまり方によって、脳血栓と脳塞栓の二つに分類され ます。
(1)脳血栓
脳の血管が動脈硬化を生じ、次第に狭くなり、ついには閉塞してしまう 病気です。高齢者に多く、症状は比較的ゆっくり進行します。夜間や早 朝に発症することが多く、軽症の場合は、手足のしびれ、運動障害、言 葉が出にくいなどの症状が出現します。重傷の場合は、高いびきをかい て、目覚めることはありません。トイレで倒れている所を発見される場 合も少なくありません。
(2)脳塞栓
脳の血管以外で作られた血栓(血の固まり)が血流にのって脳の血管に 到達し、脳の血管につまる病気です。原因としては、心臓で作られる血 栓が流れてくる場合や首の血管で作られる血栓が流れてくる場合が多い です。脳塞栓は、流れてきた血栓で脳の血管が急につまるために、症状 は急速に進行します。脳血栓と異なり、活動時間に生じることが多いた め、昼間に多い脳梗塞です。大きな血管がつまることが多いため、経過 が悪く、死亡率が高い脳卒中です。
2)脳出血
脳の血管が破裂して、出血を生じる病気です。動脈硬化でもろくなった 血管が裂ける場合が多く、高血圧の患者さんに多い傾向があります。出 血した血液は脳組織の中にたまり、血溜まりを作ります(これを血腫と 言います)。血腫できる場所や血腫の大きさで症状が異なります。出血 しやすい場所は大脳基底核と呼ばれる場所で、体の半分が麻痺する場合 が多いです。血腫が大きいと、死亡してしまいます。
3)くも膜下出血
動脈にできるこぶ(脳動脈瘤と呼びます)が破裂して、脳の表面に出血 を生じる病気です。働き盛りに多い病気で、経過は悪く、社会復帰が出 来るのは、全体の三分の一程度です。後頭部を中心とした激しい頭痛( 金槌で殴られたような、経験したことのない様な痛み)と嘔吐で発症し ます。症状は徐々に進行し、病院には歩いてきたのに、入院する頃には、 意識不明となることも珍しくありません。しかし、出血量が少ない場合 は、頭痛も軽く、風邪と診断され手遅れとなることも少なくありません。 無治療では、ほぼ100%死亡するため、早期に適切な治療が必要です (早期治療をしても、社会復帰が出来る確率は三分の一です)。

4脳卒中が寝たきりになる理由
脳細胞は、ものを考えたり、体を動かしたり、言葉を話したり、いろい ろな感覚を感じたりする働きがあります。その脳細胞が死んでしまうと、 これらの働きがなくなり、その結果、寝たきり状態となってしまいます。 脳細胞は非常にもろく、栄養や酸素がなくなると(血液の流れが止まる と)数分で完全に死んでしまいます。死んでしまった脳細胞は、心筋や 肝臓とは異なり、二度と再生することはありません。その為、脳卒中を 生じた後では効果的な治療法がなく、寝たきり状態となるのです。

5脳卒中の治療法
1)脳梗塞
(1)内科的治療(脳血管内外科医がいない場合)
脳梗塞の症例は、全例脳保護剤(商品名ラジカット)の点滴を行い、脳 血栓の場合は、抗血栓剤(オザグレルナトリウム)の点滴治療を追加し ます。脳塞栓の場合は、抗凝固剤(ヘパリン)の点滴治療を追加します。 先進的な内科では、更に血栓溶解剤(t−PAもしくはpro−UK) の点滴治療を行います(ここまでやる内科は少ないと思われます)。
(2)脳血管内外科的治療
脳保護剤の使用、抗血栓剤および抗凝固剤の使用は、内科的治療と同様 です。しかし、血栓溶解剤の使用方法が違います。脳血管内外科医が待 機している施設では、マイクロカテーテルと呼ばれる極めて細い管を閉 塞している血管(血栓がつまってる部位)まで挿入し、血栓のすぐそば で高濃度の血栓溶解剤を注入し、つまっている血管を開きます(この治 療は、発症から長時間が経過すると行うことが出来ません)。
飯塚病院では、この治療法を平成2年から全国に先駆けて行い、脳梗塞 の治療成績の向上を得ることが出来ました。その成果は、平成4年の日 本脳神経外科学会総会に発表しております。
2)脳出血
血圧を厳重にコントロールして、再出血の予防に努めます。血腫が大き い場合は、開頭して血腫を除去したり、骨に小さな穴を開けて血腫に管 を挿入し、吸引治療を行います。しかし、脳出血に対する効果的な治療 法はなく、最初の出血の部位、血腫の大きさで、その後の経過が決まっ てしまいます。
3)くも膜下出血
動脈瘤破裂によって生じる出血です。多くの患者は、一度破れた後、動 脈瘤の回りに血溜まり(血腫)ができて、一時的に止血されます。この 時期に治療を行うことが重要で、再度、出血を生じた場合は、経過が更 に悪化します。 治療は、出来るだけ早期に破裂した動脈瘤への血流を遮断することです。 血流を遮断する方法として、開頭手術と脳血管内手術があります。
(1)開頭手術
骨を外し、動脈瘤を露出させ、動脈瘤の首に金属クリップをかけて、動 脈瘤への血流を遮断します。
(2)脳血管内手術
足の付けの動脈からマイクロカテーテルという極めて細き管を体の血管 内に入れ、その先端を動脈瘤内へ挿入します。そのマイクロカテーテル からGDCと呼ばれるプラチナ性のコイルを動脈瘤内腔に挿入し、動脈 瘤の内腔をコイルでパッキングして、血流を遮断します。 飯塚病院では、平成3年1月に日本で初めて、このGDCを用いた脳動 脈瘤手術を施行し、治療に成功しております。その後、9割を越える確 率で、治療に成功しています。

6まとめ
アメリカでは、過去、心筋梗塞の早期治療を目的として、ハートアタッ ク(Heart Attack)と称した一大キャンペーンを行い、大 成功を納めました。このハートアタック キャンペーンの成功に気をよ くし、今度はブレインアタック(Brain Attack)と称し、 脳卒中治療のキャンペーンを行っています。しかし、心筋梗塞の場合と 異なり、必ずしも成功しているとは言えません(最も、脳卒中治療は、 アメリカより日本の方が先進しており、今更追従する必要もありません。 脳動脈瘤の早期手術を始めたのも日本であり、脳梗塞に対する血栓溶解 療法の有効性を示したのも日本が先です。ブレインアタック キャンペ ーンをまねる必要は全くありません)。と言うのも、心筋梗塞は筋肉の 病気であり、血流不足に耐える能力高く、また、再生する能力もあるの に対し、脳細胞は非常にもろく、血流がなくなると数分で死滅し、再生 しないためです。飯塚病院で11年間、脳卒中の最先端治療に従事して 来ましたが、その経験から言わせてもらえば、脳卒中の急性期治療も確 かに重要ですが、もっと重要なのは、脳卒中にならないと言うことです (たとえば、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤は、破裂してくも膜下 出血を生じた後に治療を行った場合は、社会復帰出来る可能性は三分の 一程度ですが、破裂する前に治療を行うと、治療の成功率は9割を越え ています)。 どの病院にかかっても、高血圧があれば危険だから下げなさいと言われ、 コレステロールや中性脂肪が高いと下げなさいと言われると思います。 しかし、なぜ、下げなければならないのか、理解した上で治療を受けて いますか?(コレステロールは体の中でホルモンを作る材料です。低け ればいいってものじゃありません) 心筋梗塞になるのが怖いのですか?癌になるのが怖いのですか?それと も、脳卒中で、長い間、障害に苦しみながら生きていくのが怖いのです か?よく考えてみて下さい。 脳神経疾患は、症状が出たときには、病気が進行しています。症状が出 ていない時期に、しっかりした治療が必要なのです。




おがた脳神経クリニック